トップページへ 別サイトへのリンクページへ 中世の歩兵の画像

 蛮族の大移動により西ローマ帝国が崩壊すると、新たに訪れた中世ヨーロッパにおいては長きに渡り、歩兵に代わり騎兵が軍で優位を占める時代となった。

 これには馬の改良やの登場だけでなく、封建社会の確立と地方分権により、古代のような大軍を集められるほどの経済力を持つ大国が消失した事が大きく影響している。かつてのような民衆からなる大規模な歩兵の密集隊形は姿を消し、代わりに少数の貴族による重装騎兵(騎士)が戦いの中心となった。こうした傾向は、「一騎打ち」といった儀礼的な戦闘で決着をつけるという事態にまで発展し、陸戦における戦術ノウハウは大きく退化した。

 しかし、中世後期ごろから中央集権化を果たした大国同士の戦が増えると、戦争は再び歩兵を中心としたものに戻り始める。中世の終わりに起きた百年戦争で、長弓兵や槍兵を主力とするイングランド軍が、貴族や騎士からなるフランス軍の騎兵部隊を完膚なきまでに破り(クレシーの戦い、ポワティエの戦い)、その決定的な契機になった。歩兵は再び軍隊における最も重要な存在へと復権を果たし、騎兵は副次的な存在として機動性が重要視されるようになった。

 騎士文化を過去の物とした長弓は、その上位互換といえるマスケット銃など初期の銃火器が登場した後も、射程・命中率・攻撃力の集中・発射速度の点で優れていたことから並行して数百年の間使用されつづけた。しかし長弓は、効果的に使うためには非常な熟練を要する武器であり、実戦で戦えるまで訓練するのには長い時間がかかった。

 このような欠点とは反対に、テルシオ隊形や三兵戦術の研究が進み、また数週間から数ヶ月訓練した多数の人員と豊富な資金と、銃や火薬の製造所さえあれば編制可能なマスケット銃兵の部隊が用いられるようになった。また近世より産業化が進行し、田園的な貴族制は廃れて、都市に人と富が集中したことが、訓練は十分ではないものの大規模な歩兵部隊の迅速な招集を可能にした。

 騎兵の機動性の向上、強い打撃力に対応して、歩兵にとっては槍が身を守る為の重要な武器となった。当初はマスケット銃兵に槍兵(パイク兵)が混成され、発砲の合間銃兵を護衛していたが、銃剣が普及するようになり銃兵に刀剣戦闘力が付加されるに至り、槍兵と銃兵の区分がなくなり、近代の歩兵の姿が確立され始めた。


■重装騎兵

 鐙(あぶみ)が開発されたことで馬上戦闘の安定性が格段に向上し、重装歩兵の戦闘力と歩兵を上回る機動性を得た騎兵が、戦場における主役となった。主力武器は槍であり、機動性を生かした突撃を行う。

 初期の重装騎兵は東ローマ帝国に見られ、剣と槍、弓で武装し、乗り手と馬の前面に重装甲を施したカタフラクトが登場する。だが、あまりに重量が重すぎたために直進しかできず、最終段階で突撃するのが主な運用方法となった。
 また封建制が一般化すると「騎士」が登場し、槍での突撃に特化したランスが登場する。だが、装甲をどんどん厚くしていった結果、馬にかかる重量が増して機動性の低下を招き、後に登場する長弓の餌食となってしまう。さらにこれに対抗するために、馬にも全面装甲を施した結果、本来の機動性の優位が消えてしまう。

 「騎士」の時代が終わった後は、過度な装甲は排除し、本来の騎兵の姿に戻る。初期は槍を装備していたが、突撃対処用の槍兵と遠隔攻撃を担う銃兵の組み合わせによって歩兵の脅威ではなくなったため、後に拳銃とサーベルに取って代わり、「拳銃で戦列を崩してからサーベルを構えて突撃する」戦術が一般化する。また、どんなに厚い装甲でも銃弾の貫通を防ぐことはかなわなかったため、防具はヘルメットと胸当てだけになり、やがて「銃弾は貫通しない」という売り文句で配備されていた胸当ても「実際は貫通は防げない」事実が判明すると、防具そのものが消えていく結果となった。

 しかし騎兵は、現在のような車両や大型機動兵器が登場するまで長く使われ続けた。時代が進み連射銃が登場すると、座高が高く的にしかならないために使い物にならなくなり、騎兵の時代は終わりを告げる。


■槍兵

 弓兵や銃兵が弾を装填している間、騎兵の突撃から身を守るボディガードのような立ち位置にある歩兵。パイクと呼ばれる4〜7メートルの長い槍で武装していた。対歩兵、対騎兵能力が高く、歩兵の主力であった。金属の防具を身につけた完全武装の者はコルスレット、軽い防具、あるいはまったく鎧なしの者は単にパイク兵と呼ばれる。

 当初は、銃兵に対する槍兵の比率が圧倒的に高く、銃兵の約7倍ほどの槍兵が配置されたが、銃の量産化が可能となり、騎兵がハンドガンを使い始めると近接戦闘の脅威が減少し、槍兵の数は減っていった。そして銃剣の登場によって、槍と銃を専業特化する必要性がなくなり、全員が戦列歩兵へと姿を変えた。


■戦列歩兵

 火縄銃やマスケット銃で武装し、密集陣形を組んで戦闘を行う歩兵。初期は銃の生産性が悪かったため、大量の槍兵の護衛がついていたが、後に量産化が進み、銃剣が登場することで、戦場の主役となる。

 だが時代が進み、銃の高性能化による遠距離からのすばやい狙撃が可能になると、威嚇のための派手な服は目立ち、格好の的になってしまった。また、連射銃の登場、火薬による散弾の威力向上などで、密集隊形を取ること自体が危険となったため、戦列歩兵は姿を消し、迷彩服を着て隠密行動を主とする現代の歩兵へと姿を変えていった。


■長弓兵

 大型の弓(ロングボウ)を用いて一斉射撃を行う弓兵。マスケット銃が出現した当初は、銃よりも射程が長く、装填速度も圧倒的に早かったことから、近代的な携帯型の自動連射銃が登場するまでは、マスケット銃と平行して17世紀あたりまで長く使われ続けた。

 しかし、銃に比べて熟練を要する武器であり、工業生産力さえあれば低い練度でも大量動員できるマスケット銃兵と異なり、人員確保面で大きく劣ったため、次第に廃れていった。

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