弩の画像

 弓は、他の武器にくらべ射程が長く強力ではあるものの、腕力と日ごろの鍛錬が必要不可欠であり、狩猟などで弓を使う習慣のない民族にとっては扱いづらいものだった。

 これらの弱点を克服するために、台座に弓を取り付けて固定し、あらかじめ弦を引いてセットしたものに矢を設置して、引き金を引くことで矢を発射できるようにしたものがクロスボウである。装填状態で落ち着いて狙いをつけることができるという、現代のライフル銃に近い感覚で運用できるため、素人でも扱いやすかった。また、弦を引っかける時だけ力をこめればいいので、普通に手では引けないような強力な弓を搭載でき、弓より高い威力や長い射程を得ることができた。だが反面、連射性能が大きく欠如しており、弓が1分間に10発程度連射できたのに対し、弩は2、3発が限界だった。

 日本においては、ヨーロッパと異なり弩の人気が無く、発達もしなかった。日本の戦争は武士同士が戦う小数戦闘が基本であり、しかも全員が弓矢の達人のため、弩の必要性が生じなかった。そのため弓が発達し、モンゴルなどと同じく複合弓を使う方向へと進化していった。


【現代のクロスボウ】
 クロスボウの原型となった弓が銃の登場で駆逐されていったのに対し、クロスボウはごく最近まで現用兵器として使われていた。

 主な用途は爆発物の投擲であり、塹壕を介した対峙が頻発したことによる。互いに塹壕内にいる局面において、「銃撃は効果が薄く」「手榴弾が届かない」という状況下で、クロスボウによる爆発物投擲は大きな効果があった。

 また、ハーグ陸戦条約(1899年)によりサイレンサー(消音装置)を使用しにくい環境が生まれたことで、音が出ない弩が使用されることもあった。

 後に、グレネードランチャーなどの本格的な機械式の爆発物投擲器の出現により、戦場からは姿を消すことになったが、拳銃に取り付け可能な高性能のサイレンサーが登場するまでは、「無音の暗殺武器」として特殊部隊やスパイによって使用され続けた。主な用途は敵の歩哨や軍用犬の殺害であったが、殺傷力は銃に比べてはるかに劣るため、矢じりに様々な工夫が施されていた。

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